「接客だけは大丈夫」
そう思っていた自分が、一番甘かったのかもしれません。
私は人生の大半を営業職として過ごしてきました。
大学時代には深夜のファミリーレストランで2年間アルバイトをし、その後も営業として数え切れないほどのお客様と接してきました。
移住後に働いた物産館でも接客やクレーム対応を経験しています。
だからドラッグストアで働くことになった時も、
「接客だけは何とかなるだろう。」
本気でそう思っていました。
ところが、その考えは見事に打ち砕かれます。
これは自分が人生で体得したものだと信じ一番自信のある事でしたのでキツかったです。
私は接客ができるつもりでいて、本当は何も分かっていなかったのです。
ドラッグストアの接客には「正解」がありました
以前にも書きましたが、大手ドラッグストアには細かな接客マニュアルがあります。
マニュアルがあるということは、それが会社としての正解です。
つまり、自分流の接客ではいけません。
今までの私は営業でも販売でも、その場で考え、その場で判断しながら接客してきました。
いわば”アドリブ”です。
ところがドラッグストアでは、
・お客様へのご挨拶
・お辞儀の仕方
・商品のお渡し方
・お声がけのタイミング
すべてに意味があり、統一されています。
私はまず、60年以上積み重ねてきた自分の接客を一度リセットしなければなりませんでした。
一番苦労したのは、覚えることではありません
よく
「60代になると物覚えが悪くなる。」
と言われます。
でも実際に働いてみて思ったのは少し違いました。
覚えられないのではないのです。
長年の習慣を、新しいやり方へ切り替えられない。
これが本当に難しい。
毎朝の朝礼では接客マニュアルの動画を見ます。
「これはもう覚えた。」
そう思っていても、現場では体が動きません。
頭では分かっているのに、長年染みついた自分のやり方が先に出てしまうのです。
「何度も見たのに、どうしてできないんだろう。」
そんな情けない思いを何度もしました。
新人に見えている景色は、本当に狭い
仕事を覚えると言っても、新人のアルバイトには全体像が見えていません。
だから最初は、
今日教えていただいたこと。
先輩から注意されたこと。
それを一つずつ忠実にやる。
それだけで精一杯です。
20代でも60代でも、新しい職場では全員が新人です。
基本を守ること。
マニュアル通りに動くこと。
それが仲間への信頼につながり、最後はお客様への安心につながっていくのだと思います。
また一つ、自分の未熟さを知りました
先日、レジで対応したお客様は妊婦さんでした。
赤ちゃんを抱っこしながら買い物をされ、カゴいっぱいの商品をレジまで持って来られました。
「少しでも早く。」
そう思って私はレジを済ませ、お会計後はサッカー台までカゴを運びました。
その時の私は、
「これでお手伝いできた。」
そう思っていたのです。
ところが、それを見ていた先輩がすぐにお客様のもとへ行き、
「お荷物の袋詰めをお手伝いします。」
と声をかけられました。
その瞬間、
「しまった……。」
と思いました。
私は、その一言が出なかったのです。
マニュアルに細かく書かれていたわけではありません。
でも、お客様の状況を見れば、先輩の行動が正解だったことは誰の目にも明らかでした。
あとで先輩から、
「どうして、お声がけしなかったの?」
と聞かれました。
私は何も答えられませんでした。
言い訳ではありません。
本当に、その発想が出てこなかったのです。
私の頭も体も、その行動をまだ覚えていませんでした。
一つ失敗して、一つ覚える
もちろん反省しました。
でも、この経験は決して無駄ではありません。
次に同じようなお客様が来られたら、
今度は私から自然に
「お手伝いさせていただきましょうか。」
そう言えると思います。
仕事とは、こういう小さな積み重ねなのだと思います。
一つ失敗して、一つ覚える。
また一つ失敗して、また一つ覚える。
その繰り返しで、人は少しずつ成長していくのでしょう。
人より多く失敗し場数を踏むことで人の数倍の速さで仕事を覚えることになります。
なので決して悪いことではないのです。
60代でも、人は変われます
60年間染みついた習慣を変えるのは簡単ではありません。
それでも毎日反省し、毎日気づき、毎日少しずつ前へ進んでいけば、人は必ず成長できます。
今書いていることも、仕事全体から見ればほんの5%くらいの出来事かもしれません。
でも、その5%を一つずつ積み重ねることで、100%に少しずつ近づいていく。
私はそう信じています。
だから焦らず、諦めず、一歩ずつ前へ進んでいこうと思います。
そして今は、同じようなお客様がレジに来られたら、
今度こそ私の方から笑顔で、
「お荷物のお手伝いをさせていただきましょうか。」
そう自然に声をかけられる日を楽しみにしています。
少し不謹慎かもしれませんが……
そんな場面が来るのを、手ぐすね引いて待ち構えている自分がいます(笑)。

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